なぜ「藤の花」は鬼を退けるのか? 『魔法事典』で考察する「魔除け」の民俗学
- Ka T
- 11月14日
- 読了時間: 4分
こんにちは!漫画ブロガーのオサムです。
『鬼滅の刃』を読んでいて、非常に印象的なシーンがあります。
それは、鬼殺隊の「最終選別」が行われる藤襲山(ふじかさねやま)の、山全体を覆い尽くす**「藤の花」**です。
あの世のものとは思えないほど幻想的な光景であると同時に、鬼たちはこの花を「忌み嫌い」、決して近づくことができません。
また、道中にある「藤の家紋の家」は、鬼殺隊を無償で助ける人々であり、その家紋(=藤の花)が鬼除けの印にもなっています。
でも、不思議に思いませんか?
魔除けの花といえば、日本では「菊」や「桃」などが有名です。
なぜ『鬼滅の刃』の世界では、**「藤の花」**が最強の魔除けとして設定されているのでしょうか?
今日は、僕の本棚にある『魔法事典』を片手に、この「藤の花」に隠された「魔除けの民俗学」について、深読み考察してみたいと思います!
「魔除け」とは何か?
まず、『魔法事典』の目次を見ると、「Witchcraft(魔女術)」や「Sorcery(妖術)」、「Demon(悪魔)」といった、いわゆる「邪悪なもの」や「呪い」に関する項目が並んでいます。
「魔除け」とは、こうした人知を超えた「負の力」から身を守るための対抗呪術(カウンター・マジック)です。
民俗学の世界では、魔除けにはいくつかのパターンがあります。
1. 邪悪なものが「嫌う」ものを使う(例:ニンニク、十字架、強い香り)
2. 邪悪なものを「欺く(あざむく)」ものを使う(例:身代わり人形)
3. 聖なる力で「結界」を張る(例:聖水、お守り、注連縄)
この視点で「藤の花」を見ていくと、驚くほど多くの「魔除けの条件」を満たしていることがわかるんです。
考察1:その「強い香り」が邪気を祓う
藤の花は、非常に**「香りが強い」**ことで知られています。
開花の時期には、むせ返るような甘い香りが周囲に立ち込めます。
古今東西、香りの強い植物は、その「生命力の強さ」の象徴として、魔除けや儀式に用いられてきました。
西洋の魔女術(Witchcraft)が特定のハーブを使うように、植物の香りは目に見えない力を持つと信じられてきたのです。
『東洋神名辞典』の考察で触れたように、「鬼」の語源が「隠(オン)=姿が見えないもの」や「穢れ(けがれ)」の象徴だとすれば、**「藤の強い香り」=「強い生命力の気配」**は、死や闇の属性を持つ鬼にとって、本能的に耐えられない「浄化の力」として作用しているのではないでしょうか。
考察2:その「色(紫)」が神聖さを示す
藤の花の色は、もちろん**「紫色」**です。
この「紫」という色は、民俗学的に非常に重要な意味を持っています。
古来、紫色の染料は非常に希少で高価だったため、洋の東西を問わず「最高位」を示す色とされてきました。
日本では聖徳太子の「冠位十二階」で最高位の色とされ、高貴な身分や、位の高い僧侶だけが身につけることを許された「神聖な色」です。
『魔法事典』にも項目がある「Mandara(曼荼羅)」など、仏教美術の世界でも、紫は神秘性や高貴さを表す色として扱われます。
つまり「紫色」は、**「俗なるもの」を寄せ付けない「聖なる色」**の象徴。
鬼という「俗」や「穢れ」の存在が、最も神聖な色である「紫」を嫌悪し、近づけないというのは、非常に理にかなった設定だと言えます。
考察3:その「姿」が結界を成す
藤の花は、その咲き方が特徴的です。長く、しだれるように垂れ下がって咲き誇ります。
藤襲山で見たように、あれが群生すると、まるで**「紫色のカーテン」**のようになりますよね。
これこそが「結界」です。
『日本の神社200選』に載っている神社を思い出してください。
拝殿の前には「注連縄(しめなわ)」や、神様のいる場所には「御簾(みす)」が垂れ下がっています。あれらは、神聖な場所と俗世を分ける「境界線」=「結界」の役割を果たしています。
藤の花がしだれ、垂れ下がる姿は、それ自体が**「聖域と俗域を分ける、天然の御簾(結界)」**として機能しているのです。
鬼たちは、あの神聖な結界を物理的に突破することができないのではないでしょうか。
まとめ
『鬼滅の刃』で「藤の花」が鬼を退ける理由。
それは、単なる作者の思いつきではなく、日本の民俗学や信仰に深く根ざした設定だったのです。
1. 強い香り(生命力による浄化)
2. 神聖な色(高貴さによる魔除け)
3. 垂れ下がる姿(聖域との結界)
これら強力な「魔除けの条件」を完璧に兼ね備えているからこそ、藤の花は鬼に対して絶対的な力を発揮するのでしょう。
そう考えると、最終選別で鬼殺隊士たちが藤の花に守られているシーンや、鬼殺隊を支援する「藤の家」の存在が、より一層尊く、ありがたいものに感じられますよね。
いやあ、物語の細部に宿る「意味」、深掘りすると本当に面白いです!
オサムでした。
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