【鬼滅と神話】なぜ舞台は大正時代だったのか？ 近代化に潜む「闇」と「伝承」の黄昏

こんにちは！漫画ブロガーのオサムです。

『鬼滅の刃』の魅力といえば、熱いバトル、魅力的なキャラクター、そして胸を打つ家族愛…。ですが、僕がこの物語に惹きつけられてやまない理由の一つに、その**「舞台設定」**があります。

そう、**「大正時代」**です。

なぜ、平安でも、戦国でも、江戸でもなく、たった15年しかない「大正」という、短くも激動の時代が選ばれたのでしょうか？

文明開化の「明治」と、戦争へと向かう「昭和」の狭間。

この「大正ロマン」と呼ばれる時代は、一見すると華やかで、鬼のような「闇」とは無縁に見えます。

しかし、僕の本棚にある『魔法事典』や『東洋神名辞典』、『日本の神社２００選』といった資料の視点からこの時代を眺めると、これ以上ないほど「鬼」と「鬼殺隊」の物語にふさわしい、「黄昏（たそがれ）」の時代だったことが見えてくるんです。

今日は、その理由をオサムが深読み考察します！

「近代化」＝「闇」が駆逐される時代

まず、「大正時代」とはどんな時代か。

それは、「近代化」の光が、日本全土を隅々まで照らし始めた時代です。

明治維新によって西洋の技術が流れ込み、大正の世では「電気」が都市を照らし、「鉄道（蒸気機関車）」が人や物資を高速で運ぶようになりました。浅草のような街には、洋装の人々が行き交い、夜でも明るい「不夜城」が生まれ始めます。

…さあ、ここで考えてみてください。

「鬼」とはどんな存在でしたか？

彼らは**「夜」にしか生きられない、「闇」の住人**です。

彼らの唯一の弱点は「太陽の光」。

つまり、「近代化」とは、鬼にとって自らの生存領域（＝闇）が、人間の「科学」という「光」によって物理的に奪われていく時代だったのです。

無限列車編で、蒸気機関車という「近代化の象徴」そのものが鬼の巣となったのは、非常に象徴的でした。

しかし、街に「電灯」が増えれば増えるほど、鬼が活動できる「闇」は確実に減っていく。

鬼舞辻無惨が千年もの間身を潜めていたのに、この時代になって活発化した（ように見える）のは、「近代化」によって自らの「夜」が脅かされ、焦っていたからではないでしょうか。

「伝承」が「迷信」に変わる黄昏

もう一つの重要な側面。それは**「伝承の黄昏」**です。

「近代化」は、「科学」や「合理主義」の光でもあります。

それは、「鬼」や「妖怪」、あるいは『魔法事典』に載っているような「呪術」や「魔術」といった、**目に見えない「伝承」や「信仰」**を過去のものとして葬り去る光です。

• 病は「怨霊」や「呪い」のせいではなく、「細菌」のせいだと解明される。

• 闇夜の怪異は、「妖怪」や「鬼神」ではなく、「見間違い」や「迷信」として片付けられる。

『日本の神社２００選』にあるような、古来の神々への信仰（アニミズム）も、近代化の中でその形を変えていきます。

大正時代とは、

「まだギリギリ、人々が『鬼』の存在を信じていた（かもしれない）最後の時代」であり、

「もう間もなく、それらが『迷信』として完全に否定される直前の時代」だったのです。

これこそが「黄昏（たそがれ）」です。

光（近代）と闇（伝承）が交じり合い、どちらの世界もまだ存在している、最後のマジックアワー。

なぜ、その「黄昏」が完璧な舞台なのか

この「近代化」と「伝承」の狭間である「大正」だからこそ、『鬼滅の刃』の物語は、あれほどまでに切実で、美しく、そして哀しいのです。

1. 鬼殺隊＝消えゆく「伝承」の守護者

鬼殺隊が使う「全集中の呼吸」や「日輪刀」は、科学では説明できない「呪術」や「伝承」の力そのものです。彼らは、刀という「旧時代」の武器を携え、洋装の人々が行き交う都市の闇を駆け抜けます。

彼らは「鬼」という「闇」を滅ぼすと同時に、「近代化の光」によって消されようとしている「古き良き日本の魂（伝承）」を守る、最後の戦いをしていたとも言えます。

2. 鬼＝「近代」に取り残された「闇」

一方、鬼たちもまた「近代化」から取り残された「闇」の存在です。

彼らがどれだけ異能の力（血鬼術）を持とうとも、彼らの弱点は「太陽の光」という、千年変わらない絶対的な「自然の理（ことわり）」です。

科学の光（電灯）に怯え、太陽の光に怯える彼らは、新しい時代に適応できない「過去の呪い」そのものなのです。

まとめ

『鬼滅の刃』の舞台が「大正時代」だった理由。

それは、「近代化」という新しい光によって、「鬼」という**「古来の闇」と、鬼殺隊という「古来の伝承（呪術）」**が、**共に消滅する寸前の「黄昏」**を描くためだったのではないでしょうか。

だからこそ、あの物語は「鬼を倒してハッピーエンド」だけでは終わらない、独特の「切なさ」と「哀愁」を帯びているのです。

鬼殺隊の戦いは、新しい時代が来る前に、古い時代の「呪い」を、古い時代の「力」で清算する、最後の「神事」だったのかもしれませんね。

いやあ、時代設定一つでここまで深読みできる！

『鬼滅の刃』、本当に恐るべき傑作です。

オサムでした！