【小説】エルザ 「腐蝕の聖女と死にたがりの騎士」7/8
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腐蝕の聖女と死にたがりの騎士
第7部 反撃、そして最終決戦へ(後半)
11. 完璧なアイドル vs 誇り高きゴミ
大聖堂のバルコニー。
宙に浮く黒い茨の翼を広げたエルザと、輝く光を背負ったアリシアが対峙していた。
「なぜ……? なぜゴミが輝いているの!?」
アリシアが絶叫する。
彼女の完璧な顔が歪んでいた。彼女は「善」であり「美」そのものとして作られた。だからこそ、「汚れ」が自分より強く、美しく見えることが許せない。
「貴女は綺麗すぎるのよ、お姉様。だから何も救えない」
エルザが静かに告げる。
「生とは変化よ。食べて、出して、老いて、土に還る。……貴女の『永遠』は、ただの剥製(はくせい)と同じだわ」
「黙りなさい! 私は光! 人類の希望!」
アリシアが両手を突き出す。
『聖なる恒久(サンクタス・エターナル)』。
あらゆる物質の状態を固定し、変化を禁じる絶対の光。それが直撃すれば、エルザは「腐る」ことすら許されず、永遠にその場に固定される彫像と化す。
極光がエルザを飲み込む――直前。
「させませんよ」
ドガァッ!!
横合いから飛び込んだボロボロの鉄塊――ガラハドが、その身を盾にして光を受け止めた。
「ぐ、おおおお……ッ!」
ガラハドの鎧が、皮膚が、細胞の一つ一つが「固定」されていく。
再生能力すら凍結する、完全なる静止。それは彼が待ち望んでいた「死」に近い安らぎのはずだった。
だが。
「……重いですね。これは『死』じゃない。ただの『停滞』だ」
ガラハドは、石化しつつある口元でニヤリと笑った。
「私の愛する女性(ひと)がくれる、あの熱い痛みとは比べ物にならない!」
ガラハドが強引に剣を振り抜き、光の奔流を霧散させた。
その隙を見逃すエルザではない。
「ナイスよ、頑丈な盾さん!」
エルザが空を駆ける。
黒い翼が羽ばたき、アリシアの懐へと飛び込む。
「来るな! 汚らわしい!」
アリシアが悲鳴を上げ、防御結界を展開する。
だが、エルザの手は止まらない。
彼女の指先は、今やあらゆる魔力、あらゆる理(ことわり)さえも腐らせて無効化する。
パリン。
最強の結界が、薄氷のように砕け散った。
「捕まえた」
エルザは、アリシアを正面から抱きしめた。
泥だらけのローブと、純白のドレスが密着する。
「還りましょう、アリシア。私たちは、元は一人だったんだから」
能力の全開放。
『聖なる崩壊・万象回帰(アッシュ・トゥ・アッシュ)』。
光と闇、永遠と腐敗。
相反する二つの力が、ゼロ距離でショートした。
12. ヤブ医者の最期
「やめろぉぉぉ! 僕の傑作が! 最強のデータが消えてしまう!」
ヴィクターが髪を振り乱して駆け寄ろうとする。
だが、エルザは抱擁の中で、冷ややかな視線だけを彼に向けた。
「……ああ、忘れてた」
彼女の黒い翼から、一枚の羽根が舞い落ちる。
それはヒラヒラとヴィクターの肩に落ちた。
「さよなら、ヤブ医者。……貴方の薬、苦いだけで一度も効かなかったわよ」
羽根が触れた瞬間。
ヴィクターの体が、足元からサラサラと砂に変わった。
「ば、馬鹿な……僕は、神に……なる……」
痛みを感じる暇すらなかっただろう。彼は一陣の風と共に、ただの塵となって帝都の空へ消えた。
そして、発光は限界点に達する。
エルザとアリシアの体が融合し、一つの巨大な光の柱となって天を貫いた。
「ガラハド!」
光の中で、エルザが叫んだ。
それが、彼女の最後の言葉だった。
「生きなさい! ……死にたがりの馬鹿!」
閃光。
世界が白に染まり、そして――音が消えた。
(第8部へ続く)




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